明治34年5月、池田菊苗は留学先ドイツからの帰途、ロンドンに立寄った。その際、文壇にはまだ無名の漱石・夏目金之助が潜んだ場末の安下宿に、ある事情で池田が同宿した。わずか50日余であったが、同じ文部省留学生とはいえ専門のまったく異なる両人が、すっかり共鳴し、忌憚なく意見を交換した。この池田との交遊は、のちの漱石の『文学論』執筆に大きな影響を与えたという。旨味(味の素)の発見者として後世に名を残した池田菊苗。さらにドイツ文化に心酔した鴎外との関係をもふまえて、日本化学界における彼の活動をいきいきと描く。
「BOOKデータベース」より