中世の精神文化を代表する偉大な作品といえば、だれでもゴシック大聖堂と共にトマス=アクィナスの『神学大全』をあげる。しかし多くの人は、いわば遙かな時代の記念碑であるかのようにトマスを遠くから眺め、讃え、そしてそのまま行き過ぎてしまう。近づいてその生の声に耳を傾ける人は稀である。たしかに、ラテン語の膨大な著作の奥にいるトマスその人と出会うことは難しい。トマスの同時代人たちも、かれを「革新者」として讃え、あるいは危険視したが、その「革新」の深い意味は理解しなかった。しかし、トマスを斥けるところから出発した近代思想が、あらゆる面で行きづまっているように見える今日、もう一つの「選択肢」としてのトマス思想を見直す必要があるのではないか。本書はトマスの生の声を伝え、読者をトマスその人との出会いに導こうとする試みである。
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