国家を担い手とし国民を広く包摂する医療保険の制度化、さらに医療の科学化と病院化による"病人"を"健康人"から分別するプロセスは、病気という"生命リスク"を回避する20世紀社会の医療戦略であった。この過程は産業化にともなう福祉国家の成立と軌を一にするものであったが、現代日本の医療制度改革にみられるように、こうした戦略は多くの面で綻びをみせはじめている。本書は、19世紀以降における疾病構造の変化、病院化の過程、オルタナティブ医療や精神疾患をめぐる事例を日独英の比較のもとに歴史的に検証し、さらには現代社会が共通に抱える高齢者のライフステージと生をめぐる新たな問題の発生・展開をも浮き彫りにする。
「BOOKデータベース」より