作曲家リヒャルト・ワーグナーが打ち立てた綜合芸術の理念は、人間存在の神話的基底を深々と抉り出す楽劇『ニーベルングの指環』をはじめとする気宇壮大な作品群に結実し、世界中の音楽ファンを魅了し続けている。その音楽を介した詩作と思索の結晶は数千年におよぶヨーロッパ文化の集大成であると同時に、「未来」を先取りする革命的なアヴァンギャルド宣言であり、それゆえにこそ歴史を動かす魔性の力を発揮し、激動の20世紀を映し出す鏡ともなった。混迷の内に見失われたアルカディアを求めながら、なお光明の見い出せぬ今日、ワーグナーという世界史的事件には人類のユートピアを考え抜く貴重なヒントが盛り込まれているのではないか…そんな思いをこめて、最先端の研究成果と内外の最新情報を満載した。
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