古代の神々に固有な表現構造が崩壊したとき、中世特有の神々が姿を現す。「根源‐始源」としての神は、記紀神話の枠外すなわち民間信仰圏に出現し、「荒ぶる神」、「利生の神」となって中世に息づいた。この「秩序を覆す神」と「秩序を打ち立てる神」の相克によって中世特異の世界形成が表現され、それがほかならぬ社寺縁起のなかにくっきりと刻印されたのである。神々は、社寺信仰圏や国家信仰圏にとりこまれる程度や度合によってその相貌を変えてゆくが、最後には人との間の境界が揺らぎ出し、その中世的生を終えることになる。ひとつの時代を構造においてとらえ、その構造自身の変動の契機をも視野に入れて論じる、力作の中世論考。
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