十八世紀までの歴史を理解するのに、なによりもじゃまになるのが、「国家」という観念である。現代のわれわれは、「国家」という観念に慣れきっていて、国家のなかった時代など、想像もできない。ところが実は、国家などというものは、十九世紀になって世界中に広まった観念だ。十八世紀末のアメリカ独立とフランス革命までは、地球上のどこにも国家はなかった。ここのところがよくわかっていないと、つい、「中国」という国家があって、「中国人」という「国民」が中国を構成していて、その中国を皇帝が治めていた、というとんでもない誤解をしがちである。ほんとうは、話が逆だ。皇帝が先にあって、その皇帝が営利事業を営む範囲が「天下」で、皇帝が経営する都市に所属する人々が「民」だった。それが十九世紀の国民国家の時代になって、「天下」は「中国」という国家、「民」は「中国人」という国民、と解釈され直した。ここから誤解がはじまったのである。
「BOOKデータベース」より