ボーヴォワールにあって、その天与の才能としてもっとも際立っているものは、幸福への才能である。彼女はのべている。「私は一生のうちで、自分ほど幸福に対する才能に恵まれた人間に会ったことはないし、また私ほど頑強にしゃにむに幸福に向かって突進していった人間を知らない。…もし人が栄光を私に差し出してくれたとしても、それが幸福に対する喪であったなら、私は栄光を拒否しただろう」と。女性という不利な条件のもとで、真面目と頑固に裏うちされた彼女の幸福へのがむしゃらな突進を、彼女の自伝は克明に語っている。その意味で、彼女の自伝は個性的な傑作である。彼女にとっては、書くことすら、この"生きる試み"の中の一つにすぎない。山を歩きまわり、自転車・車を乗りまわし、恋する、生気溢れる彼女の生涯と思想を捉えなおすことを試みた。
「BOOKデータベース」より