本書は、日本社会教育学会が1996年から97年にかけて行った宿題研究「高等教育と生涯学習」の成果を中心に、これと関連する学会員の研究蓄積、実践をまとめたものである。第1部は、研究大会、六月集会、定例研究会等の諸報告や討議のなかで見えてきた点を社会教育の研究課題としてまとめ、さらに生涯学習の基本理念、大学成人教育の理論、高等教育の構造的再編の方向、生涯にわたる民衆の自己教育運動として、すでに1920年代にはじまっている民衆大学の意義等を盛り込んだ。第2部では地域社会と高等教育の関連を地域住民のサイドから追及し、地域づくりにおける大学の役割、高等教育機関と地域社会の連携システムの構築、教育委員会をはじめ生涯学習関連行政との相互協力、学習機会への住民の参画、学習成果の波及等の現状と課題を実践例に基づいて考察。第3部では、成人学習者に焦点を当て、大学公開講座の機能、受講者の特性、学習成果の分析、高等教育機関へのアクセスの保障、女性の視点からみた夜間大学院の意義と問題等を取り上げた。また地方自治体が行っている生涯学習事業を通して、社会教育と生涯学習を概念的・実践的に融合するアプローチや市民活動・ボランティア活動と連動する「公的リカレント教育」といった視点も出されている。第4部では、アメリカのコミュニティカレッジと企業との連携事業の事例分析、伝統と改革のはざまにあるイギリス成人教育の模索と胎動、急激に変化する中国成人高等教育の現状と展望等を通して大学成人教育の新たな視座を得ることに努め、第5部は終章として、地域社会の発展にかかわる大学の可能性、住民の主体的力量形成を支援する実践の試み、さらには生涯学習の推進に対応する大学の現代的機能として、生涯学習教育研究センターの多面的、総合的な役割・構造、具体的な展開等を考察した。また大学自体の研究・教育の革新、「新たな学」の創造、現代の「理性」とは、「教養」とは何かといった問題提起や社会教育の視点から"高度化"の意味を問う問いかけがなされている。
「BOOKデータベース」より