ロンドンで静かに暮らすヘレンのもとに、一通の手紙が届いた。差出人は、会ったことのないギリシャの大富豪の祖父-その租父が病床に伏し、死ぬ前にひと目会いたいと言ってきたのだ。同情をおぼえるものの、父と駆け落ちした母を勘当し、亡くなるまで許すことのなかった祖父を恨む気持ちもある。ヘレンが迷っているとき、祖父の使いと名乗る男が現れた。浅黒い肌に神秘的な瞳のデイモン・レアンドロスは、彼女をわがまま娘のように非難し、有無を言わさぬ口調で告げた。なんとしてでもきみをギリシャに連れていく、と。獲物を見つけた獣のようなまなざしに、ヘレンは身を震わせた。
「BOOKデータベース」より