大学を構成する人的集団である大学人の観点から近代フランス大学史を考察した画期的業績である。前半は大革命の三十年ほど前からナポレオンの帝国大学に至る時期を扱う。聖職録のための教授職から近代的キャリアーとしての教授職へ、見習い奉公的教授養成から学業成績に基づく組織的教授養成の試みなど教授の専門職化の過程を分析し、さらにナポレオンの帝国大学に関する二つの主要立法を翻訳・検討し、学位授与権がカトリック教会から国立学部の独占へと移行する実態を明らかにする。後半は第二帝政末期からドイツ大学における調査研修をとおして形成された総合大学の時期を対象とする。少壮エリート大学人によるドイツ大学の講義、学生、教授およびゼミナールの観察が職業的キャリアーの創出という彼ら自身の課題に与えた影響を考察。また1870‐90年代にかけて再編成されたフランス「知識界」の実態を分析、知識人の原型が科学者であり、1901年のパリ大学人の職業的、地理的出自から、世紀末の高等教育改革による同質化を析出、さらに彼らのキャリアー戦略が文人モデルから科学者モデルへと転換したことをめぐり、新しい集合的人物像である「知識人」の誕生が促された。
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