「平家物語」を口演する藝能である「平曲/平家琵琶」は700年以上の伝統をもち、日本の「語り」の代表的存在で、室町期に最盛期を迎え、近世には浄瑠璃など語りものの世界に影響を与えた。伴奏楽器としての琵琶は「語り」とともに弾かれることは稀で、数種類の曲節(ふし)の基本音を指示したり、語り手の音高を確認するために弾かれ、『平家物語』の「ことば」を大切に伝誦しようとする「語り」の本質に根ざしている。しかし琵琶が語りに従属するのではなく、高い音域から低い音域の2オクターブに及ぶ曲節を、琵琶を支えに語り手は進むことができるのである。著者は自身の実演活動を踏まえ、平家物語に特有な言葉遣いが「語り」を通して形成されることなど、平家物語の口誦性・音楽性に与えた影響を考察、音楽が文学にいかに創造的に関わったかその本質に迫る貴重な作品である。
「BOOKデータベース」より