西欧中世初期の社会経済史研究は近年大きな転換を遂げつつある。カロリング期フランク世界の大所領は古代から中世への社会変動期として、また活発な交易を支えた所領形態として再認識され、同時に市場交易が大きな役割を果たしたことが解明されつつある。本書はこうした動向を踏まえ、アルデンヌ地方、およびパリ周辺に所在する四つの修道院所領を、そこに内包される市場に着目し生産と流通の両面に亙って具体的に再構成する。自給自足的な閉じられたシステムとしてではなく、所領相互・周辺社会との交流を通じて多様な社会階層が垂直的に、さらに複数の地理的単位が空間的に統合されていたカロリング社会の全体像を鮮やかに示し、地中海的古典古代からヨーロッパ中世への移行過程、歴史における連続と断絶をめぐる問いに新たな視座を投げ掛ける。
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