ジャーナリズム、文学の隆盛を含めて、近代という今の社会のシステムが確立した一九世紀。『三銃士』一作で二億円見当、『モンテ‐クリスト伯爵』で二億数千万円等々…年収数億円を誇った稀代の流行作家アレクサンドル=デュマ。彼はまた、七億円の豪邸を建て、客席数一七〇〇の専用劇場を創設して破産した無類の浪費家でもあった。比類なきグルメで『料理大事典』の著者。射撃の名手で七月革命に軍功を立て、二月革命直後の国会議員選挙に立候補して落選した。三〇人以上の愛人を擁し、「子供は百人は下らない」と豪語した。近代が最も近代らしかった一九世紀フランスの枠のなかで、近代人が最も近代人らしく発現したデュマという人物を捉えなおす。近代の延長である現代がより鮮明に見えてくると同時に、二一世紀を貫く社会システム変革の予感にきっと私たちはおののかされることだろう。
「BOOKデータベース」より