地方自治法が新しい日本国憲法のもとで制定されてから幾多の改正をへて半世紀がたった。しかし、個々の条文は、詳細に検討してみると必ずしも新しい憲法の精神に対応しているとはいい難い。これは、本書第一巻の「はしがき」でのべられているように、明治以来の旧制度の殻を背負っているからである。この基本性格は、とくに、ここでとりあげる各条文を貫徹しているといっても過言ではない。地方自治法第九章で「財務」と名づけられている各条文は、旧内務省及び自治省関係者たちによって、いわゆる「財務」事務という行政の内部事務として性格づけられ、評価され、解釈されつづけて今日に至っている。つまり、この「財務」の各条文とこれに関連する重要事項、議会の行政府統制、長の執行統制の責任と権限、監査委員の役割などの諸規定は、その解釈と運用実態に於いて、明治以来ほとんど何ら変っていないといってよい。このことを明らかにするため、本書でも、第一巻と同様に、各条文の明治以来の制度的沿革をたどり、学説の変化やそのときどきの解説書により解釈の変遷をさぐっていくことを最も重要な方法のひとつとした。われわれの、地方自治法第九章いわゆる財務のコンメンタールの最大の特徴は、この沿革の歴史的分析にある。
「BOOKデータベース」より