古来『日本書紀』は神書としての扱いを受けてきた。特に本書が考察の対象とする神代巻は古くから重視され、室町時代から江戸時代初期にかけては、『日本書紀』の注釈書といえば神代巻に限られていた。ただその研究は五行説や本地垂迹説などの影響を受けていて、今日の目から見ると脇道に逸れていることが多い。『日本書紀』の研究は本居宣長によってその基礎が確立された。本居は漢文で書かれ、漢籍の潤色を受けている『日本書紀』より『古事記』を重視した。しかし結局のところ現代の『日本書紀』研究は、古代日本語、古代社会に対する深い知識に基づく本居の業績にその多くを負っている。ただ、神話の時代を論じるのに不可欠な宗教学、神話学、文化人類学、民俗学などの方法論は本居の知らないものであった。本書ではこれらの分野の内外の研究成果を踏まえて、『日本書紀』神代巻の全面的な検討を行う。
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