本書は、この10年間に筆者が発表したメディア法研究をまとめたものである。もともとメディアは科学技術の発展とともに進歩してきた歴史があるが、この10年あまりの電気通信技術の発展は、メディアの世界を文字どおり激動の真っ只中へいざなってきた。そのことは、すでに10年前に放送と通信の融合化現象が、その前兆をかいま見せていたことに現われていたが、ここ1、2年あまりのインターネット・ブームなるものは、その現象がいよいよ生活者たる個人の身辺にまで及んできたことを示すものであろう。しかし、メディア秩序変容の動因はそれにとどまるものではない。これもまた10年あまり前から、いわゆる「犯罪報道の犯罪」現象なるものが指摘され、その問題性が厳しく批判され始めた。それは現在、「マスコミ倫理」なる言葉になって代表されているが、従来、「表現の自由」の担い手として比較的素朴に把握されてきたマス・メディアが、必ずしもそれにとどまるものではないことを如実に示すものであろう。メディアの問題が、今日これほどまでに頻繁に問題となることの背景には、一面で、現代生活というものが、あらゆる意味においてメディアの存在なしに成り立たないこと、つまり、衣食性、あるいは電気、ガス、水道といった資源の供給と並んで、生活基盤の地位を占めるにいたったことに求められる。本書もまた、基本的な次元において認識を共有する。
「BOOKデータベース」より